オランダの教育~多様性が一人ひとりの子どもを育てる~

オランダといえば、風車、チューリップ、中にはゴッホを思い浮かべる方もいらっしゃるのではないでしょうか。オランダはよく「自由の国」と言われますが、オランダの一人ひとりを大切にする社会では、どんなふうに教育が行われているのだろう?という興味から、この本を手に取ってみました。

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オランダの学校は100あれば、100のちがう教育をやっている?!

オランダでは、カトリックとプロテスタントの融合団体が経営している学校、異なる年齢の子どもたちを一つのグループにして指導する学校、イスラム文化を中心にしている学校、近代的な建物で学ぶ学校、政治家や企業経営者のエリート養成学校などなど、それぞれの学校が特徴を持ち、親や子どもに宣伝しているそうです。日本のような校区制はありません。

小学校に入学できる4才になったら、市内にある小学校リストが送られてきます。そのリストには公私立のすべての学校が含まれており、学校の特徴、教育理念、方法など説明されていて、アムステルダムのような大都市であると70~80ページにもわたる冊子になるそうです!

私の娘は公立の小学校に通っているのですが、学童の関係で学区外申請をする際、2つの学校の校長先生とお話する機会がありました。そのとき、「ここの学校の特徴はなんでしょうか?」と聞いてみると、「公立では特にどこも特徴はないですね」のなんと2校とも同じようなコメント。流石に驚きました。私が無知だったのかもしれませんが、これが現実だったかと・・・。

それぞれが大変強い個性をもち、驚くほど豊富な多様性をもつオランダの学校と日本の学校は、まるで正反対なのかもしれません。オランダの学校の特長として、以下が挙げられていました。

  • ありとあらゆる思想と方法に基づいてつくられる学校。
  • たくさんの選択肢から子どものために学校を選ぶ親の権利。
  • 一人ひとりの子どもの個性と能力に合わせて行われる個別指導。
  • 平均から外れた能力や問題を持つ子どもを指導するために存在する矯正教師。
  • 社会的にハンディを背負った子どもに対する追加補助金。

オランダでは、独自教育スタイルを持つために、校長先生のリーダーシップが大変重要となるそうです。法律で「校長は教授活動から解放されない」という条項があり、校長先生でも週に一度は実際に授業を担当することが義務付けられているそうです。生徒とのコンタクトを失って教育現場の実情に疎くなってしまわないようにということで、素晴らしい条項ですね。

学歴を誇張しないオランダ・・・(=学歴編重社会ではない)

学歴編重社会は、子どものもつ様々な可能性のうち、ごく限られた能力だけを重視してしまう社会といえるのではないでしょうか。

これを突き詰めてみると、一定の職業を他の職業より優れているとする社会でもあるのです。

正直言うと・・大学卒業後に大手商社からスタートした、私自身もそうでした。いつの間にか、それも無意識のうちに、職業に優劣をつけていたような気がします。小さい頃から、社会からインプットされてきた結果ともいえるかもしれません。その後、様々な職業の方々の協力を得て仕事をする内に、漸く職業に優劣がないこということを認識していったような気がします。

オランダで学歴を誇張しないのは、職業には優劣がないということを、少なくとも倫理として多くの人が原則的に認めているからではないでしょうか。要するに、「一人ひとりを大切にする社会」だということなのだと思いました。

オランダでは人々の生活水準がかなり均質的です。子どもたちは、したくもない勉強を無理学者や医者を目指すのではなく、自分の能力に相応しい進路を選び、早く自立できる道を探そうとするそうです。この部分は特に、今の日本の多くの親の考え方と違いがあるように感じます。

人と人の間にランクづけをしないこと。それが、社会全体として適材適所が実現されるもっとも大事な条件なのかもしれません。オランダの文部省が「学校の多様性は多ければ多いほど良い」というのは、適材適所はひとつの尺度では発見できないからだそうです。納得できますね。

自分と他人とは違うということを学ぶ

1993年に導入された中等学校の必須科目に「verzorging(フェルゾヒング)」という科目があるそうです。
英語の「CARE」にあたり、世話をするとか面倒を見るというような意味。オランダ文部科学省から示しているこの科目の目標のひとつがこちら。

生徒が現在また将来にわたって、自分自身と他人を尊重することができるようになる

この科目学で、社会で生きていくために、まず一人の個人として何が期待されているかを知る。人間関係を正しく結ぶ為に、他人をどのように尊重しなければならないのかを知る。個人から成り立つ社会とはどういうもので、そこでどう行動するべきなのかを学ぶ、のだそうです。

人は自分の能力があるがままに認められ、それに相応しい場を社会の中で得て初めて、やる気と大きな幸福感持って生きていくことができるのではないでしょうか。また幸福感を得られることで、自分の能力をさらに伸ばそうと思えるようになるのではないか。

おわりに

全体を通して一貫して感じたことは、オランダの教育は「個人」をとても尊重していること。日本ももう少し、考え方や人生の歩み方に個の自由が認められていくといいなと思います。オランダ教育について、歴史的背景も含めて詳しく描かれており、とてもよい本です。

是非機会があれば読んでみてください!

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