今回ご紹介するのは、社会科学的ファンタジーと教育劇という、スタイルも内容も異なる2つの物語で構成され、本の中の謎を解く鍵が、タイトルである「ダイバーシティ(多様性)」になっているという少し不思議な本です。「ダイバーシティ」、日本ではまだ耳慣れない言葉でしょうか?この本は、異なった物語を通して、ダイバーシティの具体的な意味を教えてくれました。
1つ目の物語は『6つのボタンのミナとカズの魔法使い』。画家のエムエムと医者のエムディの子、ミナ(フィンランドで私を意味するそうです)が7つ目の陽気ボタンを探しもとめていくファンタジーです。2つめの物語は皆さんもご存じの方も多いと思いますが、『ライオンと鼠』。アメリカと日本で、物語の内容が違うのをご存じでしたか?その背景や、社会、文化のもつ価値の違いを、米国の教授と生徒が、あらゆる視点から議論しながら、ダイバーシティの具体的な意味を説いていきます。
『6つのボタンのミナとカズの魔法使い』
6つのボタンのミナ
ミナの星では、生まれてくるときに親から特別な服を授かるそうです。その服にはボタンが7つ:
1.創造と美のボタン:新しいもの美しいものを自分で工夫してつくりだす力
2.思考のボタン:真似ではなく、物事を自分で考える力
3.健康のボタン:病気にかかっても自力で回復できる力
4.愛情のボタン:大切な人や大事なものをきちんと大切にできる力
5.努力のボタン:人一倍の努力をする力
6.正直のボタン:青っぽいのは正直者、赤っぽいのは嘘をつきやすい者
7.陽気のボタン:悲しいこと辛いことも、前向きに受け止めて生きていく力
それぞれのボタンがどのように組み合わさるかによって、性格や価値観が違うひとたちが存在するイメージが湧いてきますね。
ミナの洋服には7つめのボタンがなぜか欠けていたそうです。そのボタンを授けてもらうために、カズの魔法使いの住む謎の島へ。宮殿へ通じる門へ行くために、あらゆるタイプの人と対話し、よく考え抜きながら勇気をもって決断していくストーリーになっています。
ちなみに私は、この7つのボタンをみた瞬間、子育てを思い浮かべました。そして、考えさせられました。これら7つの力を幼少時にしっかりと育んであげること。それが親としての責任であり、ひとつひとつのボタンがとても大切であることを、改めて感じさせられました。
「この星の人間が、みなひとりひとり違うからこそ、むしろいいのじゃよ。」
魔法使いカズがミナに伝えた言葉です。これこそ、「ダイバーシティ」の理念の表明なのかもしれませんね。同じような人が集まってもできないことを、力を合わせれば成し遂げられる。ミナはカズの住む謎の島へ辿り着くまでに、ひとりひとりが違うことの良さを信じることができました。そして、生きる勇気をもつことができたのです。
ひとりひとり違うことに良さがあり、その良さを本当に理解するためには、お互いを認め合い、支え合うことが大切だということ。ダイバーシティってアメリカの思想のようですが、明治生まれの童謡詩人“金子みすずさん”は「私と小鳥と鈴と」という唄でこのダイバーシティ思想を見事に表現しています。
「私がからだをゆすっても、きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のやうに、たくさんの唄はしらないよ。
鈴と、小鳥と、それから私、みんなちがって、みんないい。」
否定的アイデンティティとは?
アイデンティティは他者との関わりで生まれる自己認識。他者との関係で自分を否定的に見るようになると、「否定的アイデンティティ」が生まれるそうです。
それが心理的にとてもつらい状況となり、ミナも6つのボタンで差別を受けたり、大事にされなかったことで、否定的アイデンティティを持っていました。でもそれが、肯定的アイデンティティにかわっていくことで、生きる力をつけていくのです。子育てでよく言われる「褒めて育てよ」にも繋がっているように思いました。
『ライオンと鼠』
古き日本と古きアメリカの『ライオンと鼠』の違い
ライオンと鼠の話、アメリカ版との違いをご存じでしたか?
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ある日、1匹のねずみがライオンの体に登って、ライオンの怒りを買い、呑み込まれそうになってしまいました。
アメリカ版のねずみさんはどうしたかと言うと・・
「待ってください。私を食べるのはいつでもできます。その前に私の話を聞いてください。私は小さな肉のかけらで、食べてもあなたのおなかの足しにはならないでしょう。それより今、私を自由にすれば、後できっと私はあなたを助けられることができると思うのです。私は小さくとも勇気があり、あなたの歯では切れないものをかみ切れる強い歯をもっています。」
そして、しばらくたったある日、わなに捕えられたライオンを助けてあげたのです。
日本版のねずみさんはというと・・・・
「ごめんなさい!許してください!ライオン様のお体とは知らないで登ってしまったのです。」ねずみは涙を流して平謝りし、ライオンの許しを乞います。ライオンは、一生懸命に許しを乞うねずみがだんだん哀れにおもえてきたので、仕方なく放してくれました。
自分の行いをまず謝って、相手との間で失われた感情的な調和をつくる、日本のねずみさん。対して、アメリカのねずみは、まったく謝らない!交渉術に長けているところが、なんともアメリカ的ですね。
とは言え、日本人の価値観も多様化してきています。この本の中では、新しい日本とアメリカの『ライオンと鼠』が示され、実に色々な考え方や意見を交えてながら面白い議論が進んでいきました。
おわりに
ダイバーシティは、日本企業でも注目されてきていますが、外国との価値観の違いはもちろんのこと、同じ日本人の中でも多様性は広がっているように感じます。逆に言えば、グローバル化のなかで、個別の文化を超える共通点が増えてきているのかもしれませんね。
機会があれば是非よんでみてくださいね!